TRACE HIROSHIMA 1988 |
1988年は映画ブレードランナーのごとく、毎日雨、雨、雨の冷夏だった。
薄い記憶の中では、確か10kgの米が ¥30,000 だったと思う。家ではそんな贅沢品を敬遠して、日本食には不向きのタイ米を我慢して食していたと思う。
その年に、広島市立現代美術館の開館展への出品依頼があった。島の世代の人は皆そうであると思うが、敗戦をむかえることになる広島市の悲劇に特別な感情を禁じえないと思う。
島州一の [ TRACE HIROSHIMA ] 制作プロセスの写真ファイルを見ながら、やらなければと思っていたデータファイル作成に取りかかった。もちろん身近にいた私が、写真、ビデオ撮影を担当した。その頃島はシルクスクリーンを自分で刷っていたり、ものを切り刻んでトレースするという表現方法にこだわっていた。急に箱をつくって切り刻むという毎度のユニークな発想をいかに追跡したかという記録がこの写真データです。416枚の写真をスキャナでスキャンしながらの制作プロセスの記憶を以下、記します。
1988年頃は、東京芸大に版画の非常勤講師として勤めており、自らもシリーズ SP-C でカラフルなシルクスクリーン作品を多作していた。
SP-C,D 74 |
その数年前は CFP というシルクスクリーンされたアクリルの箱の中に
finger print を構成するというダイナミックな作品を作っており、多くは美術館に収蔵されています。
CFP 45 |
finger print metro 18 |
制作プロセスを順に追っていきましょう。
●箱をつくる
この箱は切り刻まなければならないので、釘を使うことができない。つまり木釘のみです。最初に見えるデッサン用紙が制作設計図です。簡単に書かれたメモのようなものです。
スケッチブックのメモが設計図 |
●箱を切り刻む
恣意的に引いた線に沿って鋸で切り刻んでいきます。しかしこの切り刻んだ断片は元の箱として復元しなければならない。こんなにバラバラになった断片を復元するのは容易じゃないはずですが、いとも簡単にしてしまう才能に驚きます、「あんたはえらい!」
●箱のパーツのトレース①
1. 切り刻んだ箱のパーツの展開図をトレース
1. 展開図をハサミでトレース(カット)
1. パターン作成=展開図を折る、糊付け、折りライン記入
この頃、和紙にシルクスクリーンした trace という版画作品も多く手掛けています。
その手法で切り刻んだパーツをトレースしていきます。しかも箱の中に納めなければならないので折りたたまれています。まるで仕立て屋の様。
trace 10 |
●箱の復元
さてさて、バラバラになったパーツを元の状態に復元しなければならない。
各パーツに数字が書き込まれ波釘を使って復元。まるでフランケンシュタイン!
ところで、1984年にフランケンシュタインテーブルという作品を手がけています。これはテーブルを切り刻んで復元し、刻んだパーツをトレースしたものを壁に展示したインスタレーション。情報社会に惑わされないよう、アナログとデジタルを変換させる術を開示したものでしょうか?
フランケンシュタイン テーブル |
●構成及び構図色の決定
スケッチブックのメモと頭の中の設計図をもとに復元した箱の中に各パーツを構成していく作業です。パーツの色をイメージしながら色鉛筆で彩色されます。
●箱のパーツのトレース②
1.版作成=ブロッキング法によってパターンを版にトレース