2016年8月31日水曜日

Tracing-Shirt 顔


Tracing-Shirt 214


 たとえ特定の個人を表わす顔でなくても象徴的な他の事物と比べた場合、顔というのは最も具体性を帯びて迫ってくるものがある。
 画面を観る人に向って真っ向から関係を働きかけてくる予感を憶えさせる。

 私は今まで直喩的に表現する方法をとってこなかった。しかし最近の添景のシリーズの中で暗示的な間接話法をとってきた作品の中に明確なメッセージ性をもつ私個人を表現するシンボル的な映像が必要になってきた。


Tracing-Shirt 217



 そこで現在まで使って来た生活のシンボルである椅子などの、現実をメタモライズした抽象の中に、具体的なシンボルを入れることで画面がより関係性を帯び活性化する方法をとってきた。その行きつく先に顔があった。


Tracing-Shirt 213


Tracing-Shirt 215


 Tracing-Shirtの顔は、浅間山の顔であると同時に私自身の顔でもある。


Tracing-Shirt 216



2016年8月27日
島州一


flickr はこちらから▶Tracing-Shirt 2016



2016年6月17日金曜日

添景、点景(顔)

LT 444 添景
2008, 2016


 自動筆記的 なシステムで描く「言語の誕生」シリーズが持つ問題に気付いたのは2015年の終り頃だった。

 繰り返し描き付ける画面が表現の積み重ねの中に見えることのできる空間は、風景の様相として出来上がる。実相の中にある現実空間と違い、心身の運動によって改めて出来上がる空間には、現実から抽象的な平面に変わるメタモルフォズが在るが、シンボル的な要素がどうしても欠落しがちである。


言語の誕生 362 添景
2005, 2015


 その理由は次元の変換の際に起る厳密な意味の造形指向によりシンボル的な意味のある現実の形が描かれないため、いまひとつ描かれた画面の意味が読むことが出来にくいという問題が生ずる。

 そこで年月を経た現在になって、自分の象徴としてのシンボルであるアイコンを既製の画面に描き込むことを始めた。それが 添景シリーズである。



言語の誕生 274 添景
2003, 2015


 広辞苑によると、添景、点景は風景画などで趣を出すために画面に取り込まれた点在する人物、動物と解説されている。
 私は自分のアイコンの中から選んだ人物(顔)や生活の中の身辺の物の象徴である椅子などを画面に描き込むことで、眠っていた画面の意味を読むことができるようになったと思う。



LT 653 添景
2010, 2016


LT 689 添景
2010, 2016



 尚、私の描く顔には特定の人格はなく、一般の顔とされる顔のアイコンが描かれているので、その画面を見た時にそれを見た人自身になるようにと思って描いている。その顔を通して背景にある風景を認識することになる様に。


2016年6月16日
島州一


2016年2月11日木曜日

言語の誕生の添景と顔

言語の誕生321添景
2003, 2015


 人間の精神のほとばしりが肉体の素振りを通してあたかも言語を喋るように、画面上に起承転結をもって描かれ、『言語の誕生』シリーズが生まれた。この表現は自分にとっては直接的であり即物的であったはずのものが、今ひとつ納得がいかなかった。


 2007年よりTracing-Shirtシリーズを始めた。自分を浅間山に仮定することでメタモルフォーゼされ、私のシャツに浅間山というシンボルが同定して出来た作品である。その結果、作品づくりにはメタファーシンボルが同居することが必要と私に気付かせてくれた。


Tracing-Shirt 201


 そこで言語の誕生の作品の上に私の数種のシンボルをアイコンとして描き加えたところ、不思議なくらい言語の誕生の画面に同居し、画面全体が目覚めたように意味を持ち始めたのが驚きであった。


言語の誕生343添景
2005, 2015


言語の誕生338添景
2004, 2015


 言語の誕生というメタファーは私の個人的な形であって外界の形はいっさいない。作品を鑑賞しようとする時、手がかりがないとせっかくの構造も意味を持てなくなる、云わば自家撞着に陥ってしまう。

 そこに外界の具体(似像)を持ち込むことで、いわゆるシンボル(icon)とコミュニケーションが生まれ、観る者にとってそこに活発なコミュニケーションの図が描けることになった。更にその画面の上に、直に顔の造作を置くことでより作品の奥行きが生まれる気がした。


 言語の誕生と添景が綴り出す画面の内側の世界に対して、より現実的な画面そのもの(表面)に、顔をのせることで、より分厚い意味を持った空間を生み出すことになった。

言語の誕生105添景
1994, 2016

言語の誕生71添景
1993, 2016

言語の誕生 141添景+
1995, 2016


flickr 言語の誕生添景 はこちらから